親子で将来を一緒に考えるための 「THE おしごとファイル」003 【IT企業編】板橋真一郎さんインタビュー

不定期でお届けしている「親子で将来を一緒に考えるための The おしごとファイル」という企画の第3回目をお届けします。これはこれからの時代の生き方のヒントとなりそうな働き方をしておられる方にインタビューをし、親子で将来のことを一緒に話したり考えたりするきっかけとなる記事をお届けしたい、という考えで行っているシリーズです。今回は4年前に中越地区でクラウドサービスをサポートするIT企業を立ち上げた板橋真一郎さんにインタビューしました。

itabashi-miura

板橋真一郎(いたばし しんいちろう)氏
itabashi1大学卒業後、大手IT企業に就職。エンジニアとして20年活躍。その後地元である新潟県十日町市のソフトウエア開発会社へ転職するが、リーマン・ショック後退職。エンジニアがいきいきと働ける会社を作ろうと「ITプラスワン」を2012年に創業。クラウド、特にサイボウズのkintone(キントーン)を中心とした開発を積極的に行っている。

1.起業までの経緯

三浦哲(以下:三):まずは独立した経緯からお話していただけますか?
板橋 (以下:板):もともとは大学を卒業してすぐに大手のIT企業に就職したんです。そこで20年エンジニアとして働いたんですが、次第にそこでの働き方に疑問を持つようになりました。銀行系のシステム開発をしていましたが、その中でエンジニアってみんなすごく疲弊していくんです。24時間働いて何も残らない、みたいな仕事なんて、一生は続けられないなと思いました。
三:古い体質のIT会社はそうだって聞きますよね。
:そうなんです。そこで「自分は田舎に帰って働き方を変えてみよう」と思って地元である十日町のソフトウエア開発会社に転職しました。
:なるほど。
itabashi2:ただ、会社規模としては前の会社よりもずっと小さかったですが、いわゆるトップダウンの経営スタイルというのは同様でした。そしてリーマン・ショックで会社の売上がグッと下がってしまったのをきっかけに、その会社も辞めることになったんです。
:そこで「じゃあ、自分でやろう」と。
:そうなんです。自分の考えに基づいた会社を作ろう、と思いました。
:その「考え」ってどんなものですか?
:従来のIT企業のエンジニアって、ごく一部のパーツだけをひたすら作らされて、それが全体の何に役立つのかよくわからないまま仕事をしている人が多いんですよ。でもITってすごく範囲が広くて、その全体像を知って仕事をすれば、IT系のエンジニアってすごく楽しいし、すごく大きな可能性があるんです。ですからそういう全体像を見ながら開発できれば、この仕事ってすごく楽しくてワクワクする仕事なんだ、という考えです。そしてその考えに基いて、エンジニアが楽しんでかつ成長できる職場を作りたいと思ったんです。
:ソフィーには「全体がわかれば部分は楽しい」という考え方があるのですが、まさにそれですね。
:そうです。そしてその「考え」に共感した知り合いなどが数名、僕の会社に参加してくれまして、今に至っています。

2.現在の会社の状況・kintoneの新潟展開について

:ソフィーでは板橋さんの会社にサイボウズのkintone(キントーン)というクラウドサービスを利用したシステムを開発していただいていますが、それが業務内容の中心ですか?
itabashi-computer:ホームページでのアピールなど、対外的にはkintoneが中心です。そして今後はそれを中心に据えて、新潟県内に広めていきたいと考えています。ただ、実質的にはまだまだそれ以外の仕事もたくさん請け負っています。
:IT関係の会社って日本にたくさんありますけど、その多くって旧態然とした大きな建設会社のような体質で経営されているところが多いと思うんです。
:まさに私が新卒で就職したところはそうだったと思います。
:ところが板橋さんのところは、十日町という田舎にベースをおきながらも、非常に新しい体質というか、新しい仕事の仕方に取り組んでいると思うんです。
:ありがとうございます。
:そしてうちで作ってもらっているシステムのベースとなっているkintoneというシステムは、すごく画期的だと思うんです。顧客のニーズに丁寧に対応していくためにはデータベースって重要ですが、これまではそういうデータベースって、たとえばセブンイレブンとかamazonとかそういう大きな資本の会社しか本格的な導入ができなかったですよね。だけどkintoneがあれば小資本の中小企業でも、まったく同等とは言わないまでも、かなり近いことが低価格でできるようになります。
:そうなんですよ~。
miura-to-itabashi:あと、システムのちょっとしたところなら自分たちでもすぐにいじって改善できる、というところもすごく良いです。たとえば選択肢を一項目追加したい、とかそういう時に、これまではそれをシステム会社にお願いすると、それだけで数万円かかってしまったり、もしくは何日も時間がかかってしまったりしていたのに、ものの数分で自分たちでできる、というのは嬉しいです。
:そう言って頂けると僕も嬉しいです。

「イケア効果」について

predictably irrational:「イケア効果」って言葉聞いたことありますか?
:いいえ、何ですか?
:イケアという家具屋があるじゃないですか。
:はい。スウェーデンかどこか発祥の家具屋で日本でも最近横浜とか千葉とかにできているところですよね。
:そうです。そこの家具って、買ってから自分で組み立てなきゃいけなくって、だから安いっていうのもあるんですが、ちょっと面倒くさい。でも、自分で組み立てることによって愛着が湧き、もともと完成品の家具を買う場合よりも満足度が高くなる、という効果なんです。
:なるほどー。
:もともとアメリカの行動経済学者ダン・アリエリーが“Predictably Irrational”という本の中で紹介したコンセプトなのですが、この「イケア効果」がkintoneというシステムにはあると思うんです。
:お客さんが自分でいじってちょっとしたシステムなら作れたり、ちょっとした変更ができたりするから、より愛着が湧くということですね。
:そうそう。
:それはありますね。これは良いことを聞いた。「イケア効果」ですね。

「エンドユーザーに力が移って行く」という流れは止められない

:社会の大きな流れとしては、「エンドユーザーに力が移って行く」という方向性があると思うんです。たとえば家造りでも、ハウスメーカーがどーんと建てて売る、というだけではなくって、もっと買う側がDIYなどで関わっていきながらハウスメーカーと一緒に家造りをしていく、というようなことが起こってきたりするじゃないですか。ソフィー学習塾も教育業界で同じようなことをしようと考えていたりします。つまり、これまでは「教える側中心」で教育の場が作られていたけど、それをひっくり返して「学ぶ側中心」で教育の場を作っていこう、っていうことをしているんです。そいういうエンドユーザー中心へ、という流れとkintoneは合致していると思うんです。
itabashi-miura2:そうなんですよね。エンドユーザーに自分たちでできることはやってもらって、最後に「自分たちではできない」って感じで残った難しい部分を僕らがやる、っていう感じになっていくのがいいと思っています。
:おっしゃるとおりだと思います。「エンドユーザーやアマチュアの人が自分たちでできるようにしてしまったら自分たちの仕事がなくなっちゃうじゃないか」と多くのプロの人は最初はいうんです。だけど、仕事がなくなっちゃうのはそもそもアマチュアな仕事しかしていないプロの人だけであって、本当のプロの仕事は絶対になくなりません。逆にエンドユーザーがアマチュアとして少し自分でやってみることで、プロのワザの凄さっていうのがよくわかるようになるんで、むしろプロの仕事の価値は上がっていくんです。
:うん、うん。
:アマチュアの人は自分で手を動かして満足感が上がる。プロの人もアマチュアでできるような仕事はやらなくて済んで、プロとしての仕事だけに集中できるようになるので嬉しい。プロとしての価値の高い仕事は増えていく。良いことばかりです。
:そうですよね。それが私たちが目指してところです。そこを目指してワクワクしながら仕事しています。

3.将来の夢・目標

:その流れでお聞きしたいんですが、会社としての将来の夢や目標ってありますか?
:優れたエンジニアが集まっている会社にしたいです。何かシステム開発で困ったことがあったら「あそこのエンジニアはすごいから、ITプラスワンに頼むしかない」って多くの人が思うような会社にしたいです。
miura-closeup:アメリカだとプログラマーって「かっこいいイメージ」が主流だと思うんです。マイクロソフトのビル・ゲイツとかフェイスブックのマーク・ザッカーバーグとかがすぐ頭に思い浮かぶ人がアメリカでは多いと思います。でも、日本ってプログラマーってまだ決して「かっこいいイメージ」ではないですよね。だからぜひ板橋さんの会社のようなところがそのイメージを変えていってほしいです。
:ぜひ変えていきたいです。プログラムって現代の私たちの身の回りのあらゆるところにあって、インターネットでも携帯でもテレビでも車でも、プログラムコードを書く人がいなければ始まらないんです。だからコードが書けるっていうことは、本当にすごいことで、かっこいいことなんですが、残念ながらプログラマーたち自信も自分たちのことをあまりかっこいいとは思っていない人が多いのが現状です。ですからまずはプログラマーたちにそういう意識づけをするところから始めていきたいと思っています。

「自分たちスタート」の仕事 vs「お客さんスタート」の仕事 .

:どの仕事でもそうだと思うんですが、本来は仕事ってお客さんがスタート地点のはずなのに、いつのまにか自分たちとか仕事自体とかがスタート地点になってしまったりします。多くの人や多くの会社が、最初は違ったのに次第にそういう意識に陥っていってしまう。そしてそれが当たり前になってしまう。そういうことって本当によくあります。だけど板橋さんの会社のスタッフは、お客さんがスタート地点だ、という意識がすごくある感じがするんです。多くの会社は商品とかを納入して終わりになってしまうんですけど、板橋さんのところのスタッフは「使ってみてどうですか?」「便利ですか?」と繰り返し聞いてきてくれる。そして「システムは作っても便利になってなきゃ意味が無いですから」って言ってくれる。だからすごくやりやすいです。でも、そういう意識を持って仕事しているシステム会社ってまだまだ少ないです。
:うちのスタッフはそう言ってましたか?
:ええ。ふつうは正直言ってお客さんに「便利ですか?」って聞いて「いや、ここが不便だ」とそのお客さんが答えてきたら「面倒くさいな」と思ってしまう人が多いんでしょうね。だから、聞かない。でも実は、その最後の数%のツメの部分が、もっとも相手の満足度をあげられる部分なんですよ。90の仕事をして、あと10のツメを面倒くさいと思ってやらなかったら、お客さんの満足度はゼロかもしれない。もしかしたらマイナスかもしれない。せっかく90の仕事をしたのに、です。でも90の仕事をして、あと10のツメをしたらお客さんの満足度は100にできる。さらにあと3のオマケをしたら、お客さんの満足度は200になったりします。そういう意識の浸透が板橋さんの会社には感じられます。
:ありがとうございます。嬉しいですね。会社に帰ったらスタッフをほめてあげよう!(笑)そういうお客さん目線を持った優秀なプログラマーをたくさん育てていきたいです。

4.生徒たちへのメッセージ

:今の小中学生、高校生に向けてメッセージはありますか?
:すごく単純に言えば、「楽しいからプログラムやりなよ!」っていうことを言いたいです!
:なぜ「楽しい」と思うんでしょう?
:さっきも触れたのですが、私たちの身の回りのものってプログラムコードで書かれているものが本当に多いんです。そしてそれはどんどん増えていきます。だからプログラミングができればそういう新しいものに携わっていける可能性がかなり高いですし、直接かかわらなかったとしても、それがどういう仕組で動いているのか、を理解できたり、場合によってはちょっと自分の好みや用途に合わせてマイナーチェンジできたりもするし、楽しいことばかりです。
:なるほど。

プログラムコードが書ければ一人でも社会を変えられるかも!

itabashi-hand:そしてもし「社会的な問題を将来解決していきたい」と思っているような人がいたら、そういう人もぜひプログラミングを学んだほうが良いと思います。最近だとたとえばフェイスブック等のソーシャルメディアが中東の民主化の動きに大きな影響を与えたのは記憶に新しいですよね。これから社会をより良くしていくためには絶対プログラミングをやっておいたほうが良い。プログラムを書くことができれば、たとえ自分一人からでもプログラムを書き始める、ということから社会変革の一歩を踏み出して行くことができる。もしかしたら高校生や大学生のうちからだって大きな影響力を社会に及ぼすことができるかもしれません。
:確かにワクワクしますね。
:あと、もう少し現実的な話をすれば、プログラミングをする人の必要性は今後急速に高まっていくけど、それに対してプログラミングができる人の絶対数はまったく足りていない、ということもあります。
:私もアメリカのcode.orgというサイトでアメリカでのプログラマーは次の10年間でこのままだと100万人不足する、というデータがあるのを知りました。そういった中でプログラミングができれば、就職にかなり有利だ、ということですよね。code.org
:そういうことです。極端な話、プログラムが書ければ世界中どこでも就職口はあるでしょう。だから海外で働きたい、という夢を持っている人にも絶対にお勧めです。もしプログラマーにならなくたって、今はどこの会社でもパソコンを使っていますから、少しでもプログラミングが出来れば、その会社の中でかなり重宝がられるはずです。
:確かにそうですね。
:あと、プログラムというものを体験することによって「頭が良くなる」ということも起こると思います。プログラムって非常に論理的に作っていくものなので、社会人になってから必ず必要になってくる論理的思考力をすごく伸ばせると思います。もちろん論理的思考力だけが社会人として必要なわけではなくて、他のタイプの、たとえば右脳的な発想力みたいなものも必要ですが、その発想したものを具体的に形にしていくのが論理的思考力なので、これを持っていることで社会に出てから活躍できる可能性がぐっと高まると思います。

5.保護者たちへのメッセージ

:では最後に、保護者へのメッセージもお願いできますか?
:今後、日本の人口は減っていくので経済は後退していく、と言われていますが、人口が減っていく社会にあって、他の業界のパイは縮小していったとしても、人口の減少をカバーするためにコンピューターを使った効率化は必須になるわけで、IT業界はむしろ伸びていくはずです。そしてIT業界が日本で順調に発展していけば、人口が減ったからって日本の経済は衰退していくことはないと思います。
:だから子供たちの将来は明るい、と。
:もちろんその一人ひとりの子供の将来はその子次第ですが、全体としてはすごく明るいとぼくは思っています。努力したけど報われない、というような経済状況には、IT業界の下支えがあれば、日本はならないと思っています。
:力強い言葉ですね。
:IT企業ってアメリカの会社がだいたい有名ですけど、日本にも実は非常に進歩的なITに関する取り組みをしている会社ってたくさん出てきていて、そういう点でも日本経済はとっても明るいと思います。
:そうですね。ソフィーでも今後生徒たちがプログラミングにも興味を持てるようなイベントやミニレクも企画していきますので、そういったものにもぜひお子さんを参加させてあげて欲しいですね。
:はい。ぜひ後押ししてあげてください。
:今日はお忙しいところお時間頂いてありがとうございました。
:こちらこそありがとうございました。

【インタビュー後記】
穏やかな語り口でしたが、そこから語られる言葉には情熱がこもっていて、熱さを感じました。IT業界の未来への展望の話を聞き、私も心躍らされました。そして今からでもいいから私もプログラミングを学んでみよう、という気になりました。実は今は無料でプログラミングを習得できるサイトがいくつかあります。ちなみに私がはじめたサービスは http://www.codeacademy.com というサイトのサービスです。全部英語ですが、そもそもプログラミング言語そのものが英語なので、多少英語ができる人ならむしろ英語で最初から学んだほうがわかりやすい気もします。興味があればぜひ保護者の方も挑戦してみてください。


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